すごく特殊で儚げな見た目をしている『彼岸花(ヒガンバナ)』。
その真っ赤な見た目やお彼岸のイメージから、少し不気味で不吉な花と感じている人も多いかもしれません。
私自身、彼岸花と聞くと真っ先に「死」を連想してしまいます。
今回はそんな暗いイメージばかりを持たれている『彼岸花』について詳しく書いていきたいと思います。
非常に多くの毒素を持つ
彼岸花は多数の毒素を含む毒草であり、
- リコリン
- ガランタミン
- セキサニン
- ホモリコリン
などの約20種類にも及ぶ毒素を含んでいます。
毒素の量
彼岸花はよく『ノビル』や『アサツキ』と間違えて食べられてしまう事例があるのですが、大人であれば体調を崩してしまう程度で、球根を70個ほど食べないと致死量には至りません。
しかし、それでも小型の動物程度であれば、彼岸花の汁を塗った毒矢で死んでしまうほどの殺傷力は持ち合わせています。人間でも体の小さい子供であれば、僅かで致死量に達してしまう可能性があるために注意が必要です。
※大人でも皮膚が弱い方であれば、彼岸花の汁に触れるだけでかぶれたりすることもあります。
これだけの毒素があるために、彼岸花は鳥などの野生動物や虫から避けられ、安定した繁殖力を持っているとも言われています。
彼岸花に含まれている毒を利用する
日本人は、彼岸花に含まれている毒を古くから利用してきました。
害獣除け
彼岸花は水田や墓地に植えられていることが多いのですが、これは彼岸花の毒を使ってネズミやモグラを近づけさせないようにすることが目的だったのです。
薬としても
彼岸花に含まれている毒成分のひとつ『ガランタミン』は記憶機能を回復させる効果があるとしてアルツハイマー病の治療薬として利用されています。
また、「石蒜(セキサン)」や「ヒガンバナ根」という名前で漢方薬として用いられていることもあり、消炎作用や利尿作用を持っています。
他にも、茎を搾った汁で患部を流すとよいと言われていたり、根をすり潰して肌に貼り付けておくと関節痛やむくみ、あかぎれを改善してくれるそうです。
彼岸花の名前の由来
彼岸花という名前は、秋頃のお彼岸の時期に咲くことから付けられていると言われています。しかし、他の説もたくさんあり、含有している毒素の量から「食べた者には死(彼岸)しかない」ことが由来だという怖い説もあります。
また、燃え盛る火のような見た目から「家に持って帰ると火事になる」とも言われています。
その反面、「白くやわらかな花」「天上の花」など、めでたい兆しとされていることもあり、不吉・吉兆どちらの意味も併せ持つ特殊な花です。
彼岸花の花言葉
- 情熱
- 独立
- 再開
- あきらめ
- 転生
- 悲しい思い出
- 思うのはあなた一人
- また会う日を楽しみに
彼岸花には上記のようにたくさんの花言葉が存在します。意外にも悪い意味の言葉は少なく、前向きな言葉が多いですよね。
やはり、「死」が関連しているような言葉が多いのですが、それを越えた先の明るい未来を示唆する言葉もあって、本当は良い部分もたくさん持っている彼岸花の性質がよく表されていると思います。
赤以外の色も多く存在する
彼岸花といえばまず赤色が思い浮かびますが、最近では白色、黄色、橙色の彼岸花も数が増えてきています。
それぞれの色で名称も異なります。
- マンジュシャゲ(曼珠沙華)【赤色】
- アルビフロラ【白色】
- ショウキラン(鍾馗蘭)【黄色】
- キツネノカミソリ(狐の剃刀)【橙色】
この他にも、濃い赤色に黒に近い色をしているものやアルビフロラよりもさらに白くなる『真夏のクリスマス(ホウディシェリー)』という種類も存在します。
一口に彼岸花と言っても様々な色が存在し、それぞれで名前が違っていたんですね。
※原種はよく知られている『マンジュシャゲ(曼珠沙華)【赤色】』です。その他の色は交配種となります。
全国各地で様々な呼び方が存在する
基本的には「マンジュシャゲ(曼珠沙華)」と呼ばれる彼岸花ですが、その他にも様々な呼び方があります。
- シビトバナ
- 地獄花
- オヤシネコシネ
どれもこれも不吉で怖ろしい名前ばかりです。
「毒草であること」と「特徴的な見た目」から各地で認識されて名前が付けられたため、まだまだ多くの呼び方が存在するらしく、その数は1000以上にも及んでしまうと言われています。
彼岸花は外国からの渡来植物だった
彼岸花は日本独自の文化であるお彼岸のイメージがついていたり、和風な作品によく登場するために日本らしいイメージがついていていますが、実は元々日本に自生する在来種ではないのです。
おそらく、歴史書で初めて彼岸花の存在が確認された室町時代あたりに中国から入ってきたものではないかと考えられているのですが、人間の手によって植えられたのか、球根が海流に乗って日本へ流れ着いたのかは未だにハッキリと解明されていません。
これらの理由から、なんと彼岸花は離島(無人島)や山奥などの純自然林には生えていないのです。人間の生活圏にのみ見られます。
日本で大量に植えられた目的
彼岸花は歴史上で大量に植えられて増やされた時期があります。そのとき、幕府にはある目的があったようです。
それは、「いざという時の飢饉に備えるため」です。
実は彼岸花は、推奨はされていませんが、正確な処理をして長時間水にさらすことで毒素が抜け、良質なデンプンとして食べることができるのです。
しかし、いざ飢饉が起きてしまった際に大量に生えていてくれないと困るので、幕府は「彼岸花には毒があるので食べられない」という話を全国に広めて、庶民から常食されることを防いでいました。
江戸時代以降はイモ類の栽培が盛んになってきたため、彼岸花はその非常食の役目を終えました。
また、明治から昭和初期までは彼岸花を食用とするために、デンプンを精製する会社も存在していたらしいです。
全ての彼岸花は同一個体
実は彼岸花は、普通の植物のように種子で増えることができないのです。
株分けをすることでしか増えることができないので、日本に生えている彼岸花は全て、最初に持ち込まれたひとつの個体から株分けをされて増えたものだと言われています。
つまり、日本に生えている彼岸花はすべて同じ遺伝情報を持っている同一個体のようなものですね。
後書き
以上が、彼岸花についてとなります。
まだまだ日本では『マンジュシャゲ(曼珠沙華)』ばかりを見かけますが、欧米では園芸用として、たくさんの品種が開発されています。日本でも、もっと多くの美しい色の彼岸花が見られるようになるといいですね。
また、彼岸花は決してマイナスイメージだけの花ではないことがいつか世間に伝わることを願っています。