地球上で最大の生物として有名な『鯨(くじら)』。
そんなクジラの排泄物って見たことがありますか?おそらく見たことない方がほとんどだと思います。どれほどの大きさなのか想像もつかないですよね。
実はクジラの中でも『マッコウクジラ』の排泄物には特別な名前が付けられ、高値で取り引きされているそうなのです。
マッコウクジラの排泄物『龍涎香』
マッコウクジラの排泄物は『龍涎香(りゅうぜんこう)』という特別な名前が付けられます。
色は様々で灰色や黒色、綺麗なものは琥珀色をしていて、まるで大理石のような模様を持ちます。
ただ、この龍涎香は普通の便とは異なり、体内で消化できなかったイカやタコのクチバシなどが結石化されたものです。これがマッコウクジラの消化分泌物と適度に混ざり合うことによって塊となり、独特な見た目と香りが生み出されます。
その独特な見た目と香りから、中国では「龍の涎(よだれ)が固まったもの」だと考えられ、龍涎香という名前が付けられました。
龍涎香の歴史
龍涎香は『アンバーグリス(灰色のアンバー)』と呼ばれ、古くから薬や香水の原料として利用されてきました。
しかし、昔は何からできたものなのか分からずに「良い香りがする正体不明の物質」として扱われていたようです。
ところが近年(20世紀)になって龍涎香の中からイカのクチバシが発見され、それをきっかけにマッコウクジラの体内で生成されたものだということがようやく解明されました。
※日本では、室町時代の文書にこの龍涎香かと思われる記述が残っているため、中国から日本へ伝来したのはその頃ではないかと考えられています。
マッコウクジラの名前の由来は龍涎香
マッコウクジラを和名の漢字表記に直すと『抹香鯨』となります。実はこの名前の由来は龍涎香にあるのです。
マッコウクジラの生み出す龍涎香の香りが、お香の一つである『抹香』によく似ていたため、「抹香(のような龍涎香を体内に持つ)鯨」と名付けられました。
龍涎香の使い道
クジラの排泄物である龍涎香には、大まかに分けて2つの使い方があります。
香料
昔から何よりも重宝されるのがこの香料としての使い道です。昔はお香として使用されていましたが、現代ではそれに加えてハイブランドの練り香水の原料として使用されることがあります。
※香水の原料として使用する際には、エタノールに溶解させて6ヶ月熟成させます。こうすることによって、「テトララブダンオキサイド」や「アンブレイン」を含んだ良い香りに仕上がります。
漢方薬
かつては神経や心臓に効果のある漢方薬としても使用されていました。下記の症状に効き目があると言われています。
- 咳
- 気逆
- 胸痛、腹痛
- 排尿障害
- 意識障害
龍涎香の成分
龍涎香を構成する大部分はステロイドの一種である「コプロスタノール」とトリテルペンの一種である「アンブレイン」です。これにマッコウクジラの主な食料であるイカやタコの硬い顎板(クチバシ)が含まれています。
これらが混ざり合った龍涎香はマッコウクジラの体内から排出されると、水より比重が軽いために海上を漂うのですが、この間に日光と酸素に晒されるので酸化分解が進みます。その結果、「大理石のような見た目」と「得も言われぬ良い香り」が生み出されます。
龍涎香の価値
龍涎香はかつて何からできているか判明していなかったために、海岸に流れ着いたものを偶然見つけることでしか得ることができませんでした。それゆえに価値が高く、貴重な天然香料として扱われていました。
しかし時代が進み、龍涎香はマッコウクジラの体内で生み出されていたことが判明します。それに加えて商業的な「捕鯨」が始まることで一気に龍涎香の供給量が増えた結果、一時的にその希少性が失われました。
さらに時代が進んだ現代では、捕鯨が禁止されたことにより龍涎香の供給量がまた元通りになりました。また海岸に流れ着いたものを偶然に見つけることでしか得ることができなくなったのです。それに伴って希少性と価値も元に戻り、現在では高値で取り引きされています。
現在の金額は大きさと質で全く異なるのですが、約500万円もするそうです。
ちなみに、龍涎香の良い香りの元は「アンブレイン」なので、アンブレインの含有量が高いものほど価値があるとされています。
龍涎香の見つけ方
そんな高値がつく龍涎香を探してみたいですよね。
実は日本の周りには結構な数のマッコウクジラが生息しているので、近くの海岸を散歩していたら見つかる可能性もゼロではないのです。
ただそれらしいものを見付けても、難しいのはその判別です。 見た目は大理石というかほとんど石のようになってしまっているので、怪しいものを見付けても普通の石と判別がつかないことも多いのです。そこで、そんな時に困らないように、簡単に龍涎香を判別できる方法を紹介しておきます。
- 龍涎香と疑わしき物体の水分を拭き取ります。
- 針金をライターでカンカンに炙ります。
- 針金を龍涎香と思われる物体に刺し、匂いを嗅ぎます。
この方法で独特な良い香りがしてくれば高確率で龍涎香です。
後書き
以上がマッコウクジラの体内で作られる龍涎香についてとなります。
ジャコウネコもですが、排泄物にこのような高値がつくなんて不思議ですよね。
日本でも見つかった事例がたくさんあるようなので、海に行く機会が多い人は探してみてはどうでしょうか。
私も釣りで海に行く機会が多いので、今度からは注意して漂着物を探してみたいと思います。