先進国では、アレルギー疾患発生率が1970年代くらいから急増しました。この疾患は、本来ウイルスなどの異物を攻撃して排除する免疫機能が、花粉や埃などの、それほど危険性が高くない異物にも反応してしまうことで起きてしまいます。急増している背景にはライフスタイルの変化があるとされています。
ひと昔前、衛生環境が整っていない頃は、異物に接する機会が多いことからウイルスや細菌の攻撃に関わる免疫細胞が多く必要で、アレルギーが起こりにくい傾向がありました。対して今は、清潔な暮らしが基本となっています。衛生環境が整い過ぎたことで免疫細胞のバランスが変化し、アレルギーが増えたと考えられています(衛生仮説)。若い世代ほどアレルギー体質が増えているのは、こうした理由があります。
今回はこの、現代の暮らしとは切り離せない『アレルギー疾患』のメカニズムについて紹介していきたいと思います。
アレルギーのメカニズム
異物と闘うための「抗体」がアレルギーの原因に
免疫機能が無害な異物に対しても過剰に反応し、体を攻撃することで不快な症状を引き起こすのがアレルギーです。その症状は様々で、軽度なものから、時にはアナフィラキシー・ショックのように、生命に関わる症状を引き起こすものまであります。
免疫機能は血液中の白血球が担っています。白血球の免疫細胞が異物の進入の伝達や記憶、異物に対抗するための物質(抗体)を作るなどそれぞれの役割を持ち、体を守っているのです。
この抗体の一つである『IgE抗体』が、実はアレルギーを引き起こす原因となります。アレルギーの原因物質(アレルゲン)になりやすい花粉やダニなどの異物が繰り返し体内に侵入すると、異物に対抗するIgE抗体が増え続け、皮膚などに存在している『マスト細胞(肥満細胞)』と結合。IgE抗体が一定量を超えると、マスト細胞が粘膜を刺激するヒスタミンなどの化学伝達物質を放出し、くしゃみや鼻水などのアレルギー反応を起こすのです。
このように、IgE抗体が原因となっているアレルギーは、異物が入ると数分で反応が出るため『即時型アレルギー』とされます。花粉症や食物アレルギーはこれに当たります。
一方、反応が出てくるまでに時間がかかる『遅延型アレルギー』という反応もあります。接触皮膚炎や一部のアトピー性皮膚炎が当てはまります。
アレルギー体質の始まりは「皮膚」から
免疫の過剰反応によって起こるアレルギー反応ですが、最近の研究でそのきっかけが『皮膚』にあることが分かってきました。
もともとアレルゲンは目や鼻、口などから入ると考えられていましたが、実際の最初の侵入経路はなんと皮膚なのです。生後一年までの乳児は体内にIgE抗体がほとんどない、ナイーブな状態です。しかし、引っ掻き傷や乾燥などによるかぶれなどを通して異物が皮膚から体内に入り、それが免疫機能によって敵と判断されると体内でIgE抗体が次々と作られます。そしてある一定量に達した時に同様のアレルゲンが体内に入ると、アレルギー反応が起きてしまうのです。
アレルギー予防は肌の保湿から
大気中に花粉や埃が浮遊していることは広く知られていますが、実は鶏卵や豆類のアレルゲンも目には見えませんが同じように浮遊しています。これらのアレルゲンの侵入を防ぐのが皮膚のバリア機能です。乳幼児の肌をしっかり保湿しバリア機能を高めることで、アレルギー発症のリスクが3割以上低下することが分かっています。
アレルギーは無くなるものではない
アレルギーは「無くすもの」ではなく「適切に対処していくもの」です。
悩ましい症状を引き起こすアレルギーですが、もともとは体を守るための免疫機能が働いて起きてしまっています。衛生環境などの社会の成長と強く結びついているからこそ、完全に無くすのは難しいのが現状です。
しかし一方で、「昔の環境に戻ろう」という考えもよくはありません。確かにアレルギー疾患は減るかもしれませんが、不衛生な環境下では乳児死亡率は上がり、感染症が増えてしまうでしょう。
高度に発展した現代には最新の治療法と効果的な薬があります。「放置しない」「悪化させない」を合言葉に、適切なケア&治療法を見つけて、健やかな生活を送りましょう。
後書き
以上が、『アレルギー疾患』のメカニズムについてとなります。
ひと言にアレルギーと言っても、即時型と遅延型があったり、それぞれのアレルギーによって原因物質の違いがあったりと細かい違いがあります。何もアレルギーを持っていないという人は少なく、ほとんどの人が何かしらのアレルギーを持っていて、それは治療でよくなったりするわけではないので一生付き合っていく必要があります。
それぞれのアレルギータイプ毎の対処法を紹介する記事も後日アップする予定となっているので、興味がある方はぜひそちらもご一読下さい。